文化庁に「古墳壁画室」  高松塚損傷で管理見直し

 文化庁に「古墳壁画室」

 高松塚損傷で管理見直し

 極彩色壁画を誇る高松塚、キトラの両古墳(いずれも奈良県明日香村、特別史跡)の管理に特化した文化庁の「壁画古墳室」が10月1日に発足する。

 高松塚の損傷事故などを機に、同庁の調査委員会が「縦割りとセクショナリズム」といった庁内の問題を指摘してから1年3ヶ月余り。

 高松塚の石室解体が終わり、国宝壁画の保存・修復へ焦点が移る中での船出となる。(新谷 裕一)

  両古墳では文化庁の美術学芸課が壁画、記念物課が墳丘をそれぞれ管理している。

  各課の専門職員が人事上、行き来することはまずない。

  高松塚古墳で01年、業者が防御服を着ずに崩落止めの作業をしてカビ大発生の一因を作ったとされる問題では、美術学芸課に当事者意識が薄く、記念物課に仕事をほぼ任せていた。

  ところが記念物課の職員は、石室内の壁画のカビが発生する危険を殆ど認識せず、工事に立ち会わなかった。

  昨年6月に出た調査委の報告書は、庁内の責任の所在の曖昧さと共に、連携の弱さもはっきり指摘。

  当面の課題として「保存・管理体制の抜本的見直し」を第一に挙げた。

  同庁の幹部は週一回の会議で組織の改編を話し合った。そんな中、緊急事態に対応するため、昨年夏に美術学芸課と記念物課の責任担当者4人を中心に高松塚、キトラ両古墳に関する業務を担うプロジェクトチームが作られた。

  墳丘の埋め戻しで主管する記念物課の担当者の都合がつかないときは、美術学芸課員が現地で監督するなどし、少しずつ連携を深めた。

  チーム主導で高松塚の石室解体がうまく運んだため、常設の古墳壁画室への昇格が決まったという。

  古墳壁画室は美術学芸課内に置く。室長、専門職のリーダー格である古墳壁画対策調査官、美術、考古、埋蔵文化財、 墳丘整備が専門の調査官1人ずつなど計8人。壁画を保存・修復し、墳丘を再整備して、技術者も育てる。

  ただ、年度半ばの発足のため、室長を山崎秀保・美術学芸課長が併任するのをはじめ、ほかのポストも現在の美術学芸課と記念物課の担当者が兼ねる。席は両課に分かれたままで、従来業務もこなさなければならない。

  来年度は1人増員を目指すが、予算の都合で大幅な戦力アップは難しそうだ。

  京都橘大学の猪熊兼勝教授は「対応が縦割りのお役所型からモノ中心に変わるのはいい」と評価しつつ、注文をつける。

  「日本の文化財保存の技術は高レベルだが、高松塚の失敗で、国際的に「日本には任せられない」といわれかねない。教訓を生かすためにも(両古墳を)どう保存するか、正確なリポートを出す必要がある」

(朝日新聞、2007年(平成19年9月29日)

天井しっくい粉状や粒状に

20070710

天文図の浮いたしっくいをヘラではぎ取る担当者。天井は湾曲しており、作業が難しい=6日、明日香村で、文化庁提供

6日にはぎ取った天文図のしっくい。光を当てると透き間がよく分かる。右上は指先=文化庁提供

  文化庁/小片ではぎ取りも想定

 劣化が進むキトラ古墳(明日香村、7世紀末〜8世紀初め)の石室天井で、初めてはぎ取られたしっくいが非常にもろくなっていることが分かった。粘着力が弱まって粉状になり、場所によっては粒状にひび割れ、一体的に取り外すのは困難な状態だ。文化庁は今後、ミリ単位の小片で取り外す事態も想定し、はぎ取ったしっくい片の正確な位置情報を把握する方法を検討していく。

 天井のしっくいを初めてはぎ取ったのは5日。無地部分(東西32センチ、南北15センチ)を、南壁の朱雀図(縦15センチ、横40センチ)のはぎ取りで威力を発揮したダイヤモンドワイヤ・ソー(電動糸のこ装置)で切り取った。ほぼ同じ面積のはぎ取りだが、朱雀が1時間かかったのに対し、天井はわずか1分で終わった。

 理由は、しっくいの劣化だ。ワイヤ・ソーはしっくいと石材の間に鉄線(直径0・3ミリ)を高速に走らせてしっくいを切り取るが、朱雀の時はしっくいの粘着力で鉄線がU字形にたわんだ。しかし今回は、「ソーがバサーッと一気に進んでしまった。石としっくいの間は粉状になっていて、とても脆弱だった」と東京文化財研究所保存修復科学センターの川野辺渉・副センター長は言う。

 一方、6日にはぎ取った天文図の北北西側のしっくい(東西13ミリ、南北7ミリ)は、厚さは1ミリもない。「細かくひび割れ、透き間だらけ。スカスカだった」(川野辺氏)という。

 周囲のしっくいも小さな粒状になっており、一体的に取り外すのは難しい。はぎ取ったしっくいが数ミリ単位の細かい小片になり、天井のどの位置にあったか分からなくなる事態も出てきた。

 このため、文化庁は、1〜2カ月かけて、しっくいを保管する透明な容器の底に天井の同寸の写真を張って、はぎ取ったらすぐに配置するようにするなど、正確な位置を確認しながら保管する方法を検討するという。天井のはぎ取りは今秋をめどに再開させる予定だ。

朝日

キトラ・高松塚古墳

天文図 危機迫る/キトラ古墳

20070704

今年2月のキトラ古墳の天井(写真上、東京文化財研究所提供)。いずれも左が北。

04年4月の天井=奈良文化財研究所提供

床に落ちた天文図のしっくい片=文化庁提供

  カビ急増 黒ずむしっくい

 明日香村のキトラ古墳(特別史跡、7世紀末〜8世紀初め)の天井石に描かれた天文図に、危機が迫っている。高松塚古墳の壁画でも問題になっている黒いカビが急増、周囲の白いしっくいは黒く変色し、溶けて失われている。3日にはついに朱線が付いていたしっくい片も落下した。04年に始まった石室壁画のはぎ取りでは、技術が確立されていないことから天文図だけ最後まで残されたが、状態は刻一刻と悪化している。
 (筒井次郎)

   ついに一片が落下

  138カ所にカビ

 天文図は直径60センチ。しっくいの上に350個の星が、金箔(きんぱく)(星)や朱線(赤道や星を結ぶ線など)で描かれている。

 文化庁による石室の点検は週2回。昨年4月に確認された天文図の黒いカビは、今年に入って急増した。2月は2カ所だったのが、3月に30カ所、4月に24カ所、5月に11カ所。白や緑のカビも含めると、天井全体で3〜6月の間に138カ所に達した。

  暖冬も一因?

 3月9日には星座の金箔や朱線上でも黒いカビが見つかった。文化庁の担当者は「2月の朱雀(すざく)図はぎ取りで石室の出入りが増えたことや、暖冬が影響したのかもしれない」と推測する。

 天井では、しっくいが溶ける現象も深刻だ。05年秋に確認され、特に盗掘口(出入り口)に近い南側が顕著だ。天文図のすぐ北側の露出した石材の周囲ではしっくいが溶けて露出部分が広がり、白かったしっくいは黒く変色。厚さも薄くなってきているという。

 原因は、しっくいが溶けてできた小さな穴から検出された酢酸菌の疑いが強い。酢酸菌は、しっくいの主成分のカルシウムを溶かす性質がある。

  はぎ取り困難

 だが、今なおはぎ取る方法は見つかっていない。上を向いた作業になる上、湾曲した天井がさらに難しくする。

 文化庁は、壁面で最後まで残った朱雀図で威力を発揮したダイヤモンドワイヤ・ソー(電動糸のこ装置)の応用を検討している。しっくいと石材の間に細い鉄線を走らせてはぎ取る仕組みだ。しかし、天井では凹凸が見つかり、ワイヤが途中でしっくいから飛び出す危険性も出てきた。

 修理を担当する東京文化財研究所保存修復科学センターの川野辺渉・副センター長は「一日も早くはぎ取りたいが、めどは立っていない」と、厳しさを口にしている。

 文化庁は5、6の両日、天文図の周囲で黒く変色した部分をはぎ取る予定だ。天井全体のしっくいについても、落下する恐れはないかどうか調べる。